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第二章

 第二章 街角の物語

 快晴、とは言い切れないものの、雲も無い大空には惹かれるものがあった。そんな空の下、大介は一人で歩いていた。もちろん、愛用のデッキは欠かさずに。
 「はぁ、何か無いかなぁ……」
とても暇そうに、時間を持て余していた。親友の徹は今度開かれるクラス内の大会に専念していた。到底、大介の相手などしていられない。
 そういう大介も、大会に参加することはもちろんだ。クラスでも遅く始めた方であったが、今ではトップクラスである。それも、学校内での話だ。
 秋の半ばなのか、大介は木枯らしに吹かれながら歩いていた。しかし、ある一点で視線は留まった。
 「あ、あれは……」
そう呟くが早いか、振り返って逃げることにしたのだ。だが、運命の女神とは意地悪なものだった。大介の足は止まった。
 「……」
体が一瞬、震えたのだ。もちろん、ただの木枯らしなんかじゃない。完璧に悪寒だった。
 大介が視線を留めた先、そこには一人の少女が立っていた。品の良い薄茶色のコートを着て、店の中を見ながらこちらに向かって止まっては歩きを繰り返していた。
 しかし、今は歩き続けている。それも大介に向かって。
 「やぁ、深雪……」
完全にブルー、いやブラックな雰囲気だった。もちろん、それは大介であって深雪は気にしていない。いや、正確にはわざと気にしていない振りをしているのだろう。
 「どうしたの、大介?」
声と顔に嫌味と大きく書いてあった。さっきまでの、気にしていない振りはこの為だったのだろうか。すでに、深雪の態度が変わっていた。
「だいたい、何で逃げるのよ、大介」
大介としては会いたくなかったらしい。クラス替えから半年、と言っても全員と仲良く、などと言った事は不可能だ。性格上、会いたくなかったらしい。
 しかし、大介と深雪は幼稚園からの幼馴染、今更気付いたことではない。
「まぁ、いいわ。それよりねぇ、これ持って♪」
頼んでいる、にしては一方的だった。買物袋を持たされた大介は、やっぱり、と溜息をついていた。この溜息は荷物を持たされた事では無く、今日一日奴隷になる事に対してだった。
「大介も一緒に買物しない?」
完全に一方通行の命令に近かった。本人はそのつもりは無いらしいが、大介はそう感じたらしい。
 「それにしても、寒いわね」
マフラーに手袋、大介に対する嫌味である。
 「で、どこ行くの」
早く済ませたかったらしい。だが、そうは調子良く行かない。しかし、深雪には調子良すぎるぐらいだった。
「そうね……何処が良い?」
「自分の家!」
即答だった。
 「じゃぁ、デパートでも行く?」
流された、それもあっさりと。
「金は出さないぞ」
「失礼ね!そこまで酷くないわよ!」
明らかに、そこまで、と認めていた。が、深雪自身は気付いていない。
「さぁ、行くわよ!」
ただ意味も無く、地獄へ行く破目になったのだ……

 「わぁ、あれ良いと思わない?」
深雪の指差す先には女子向けのバッグがあった。だが、もちろんの事、大介に反応の色は無い。
「良いんじゃない」
ぶっきら棒だったが、深雪にはそれで良かったらしい。
 「ちょっと、待ってて」
それは大介が言ったのだった。そう言うなり、遊戯王カード売り場に駆け寄って行った。もちろん、深雪は何も気にしていない。それどころか、気付いてさえいない。
 「まだ見てるのか……」
カードを買っている間にバッグを買ったと思っていたらしい。しかし、まだ深雪は品定めしていた。決して、ブランドではないが、慎重だった。
 「あれ、それ何時の間に買ったの?」
「今さっきだよ。ほら、そこで」
やっと気付いた、と言いたげに呆れていた。大介を散々待たせたのだから、無理も無い。
「私も買ってくる」
そう言って買っていた。すぐに戻って来たが、中身を見るのに時間が掛かっていた。
「ねぇ、次は公園に行かない?」
そう言って、深雪は先にデパートを出て行った。大介は買物袋より、胃袋の方が重く感じたようだった。が、すぐに深雪を追いかけて行った。

 「じゃ、ここでやるわよ」
「やるって、何を?」
折角、深雪がやる気を出したにも拘らず、大介は気付いていなかった。
「ドジねぇ、デュエルに決まってるじゃない!」
「おっ、デュエルか!なら、容赦しないぜ」
気付けば、公園は静けさを増していた。イチョウを散り、木枯らしに吹かれた空。寂しさを漂わせていた。
 「よっしゃ、準備は良いな!俺の先攻、ドロー」
カードを引き、特に考えもせずにカードを出した。
「場に、アームド・ドラゴン LV3を攻撃表示で召喚、そして魔法カード、レベルアップ!を発動する。レベルアップ!の効果により、アームド・ドラゴン LV3を墓地へ送り、アームド・ドラゴン LV5を特殊召喚!そして、カードを1枚伏せ、ターンエンド」
1ターン目にして、攻撃力2400のモンスターを召喚したのだ。これに対して、深雪は怒っていた。
 「ちょっと、いきなり先攻盗った挙句、そんな強いモンスター出すなんて」
そう言いながら、カードを引いた。
 「ホーリー・エルフを守備表示で召喚。そして、フィールド魔法、天空の聖域を発動!」
天空の聖域は、天使族モンスターを破壊された時、受けるダメージを0にしてくれるフィールド魔法だ。どうやら、深雪は天使族を主力にしているらしい。
 「これで、ターン終了よ」
「天空の聖域か、面白い勝負にしてくれよ。まぁ、ドローしないと始まらないけどな」
そう言ってカードを引いた。そして、場にサファイアドラゴンというカードを出した。
 「アームド・ドラゴン LV5でホーリー・エルフを攻撃!そして、サファイアドラゴンで攻撃!1900ダメージ」
 深雪は焦っていた、というふうに見えたが、かなり気楽そうな顔をしていた。
 「私のターン、ドロー」
手札を見ていた。さっきは笑っていたものの、慎重、そして真剣だった。
「鳳凰神の羽根で墓地からカードを1枚デッキの上に戻す。その代わり、光の護封剣を墓地へ送る。そして、モスターを裏守備表示でセット。ターンエンドよ」
「俺のターン、ドロー。アームド・ドラゴン LV5でモンスターを攻撃!」
「聖なる魔術師のリバース効果により、墓地の魔法カードを1枚手札に戻す」
「だが、聖なる魔術師はやられるぜ。オマケだ、サファイアドラゴンで攻撃!」
深雪は1900のダメージを受けた。更に、オマケだ、の一言に腹を立てたようだ。
 「何が、オマケだ、なのよ。もっと相手を労わりなさいよ」
「はぁ……デュエルでもこんなに疲れる……」
完全に呆れ果てていた。
 「五月蠅いわねぇ。私のターンでしょ、ドロー」
鳳凰神の羽根の効果で選んだのは、ホーリー・エルフだった。
「魔法カード、光の護封剣を発動!これで3ターンは安全だわ」
光の護封剣、それは相手を3ターン攻撃できなくさせるカードだった。
 「御前、何でもっと早く使わなかったんだよ……」
「五月蠅い、良いの!そして、私はゾルガを召喚。ターンエンド」
ゾルガはたいしたカードではないが、効果を持っていた。
 「俺のターン、ドロー。サファイアドラゴンを生贄にエメラルド・ドラゴン召喚!ターンエンド」
大介の場には、攻撃力2400のモンスターが2体揃っていた。
 「私のターン、ドロー。私はゼラの戦士を召喚。そして、大天使ゼラートを特殊召喚。ターンエンド」
どうやら、大介の罠カードを警戒しているようだ。
 「普通に攻撃しても良いんだぜ、御嬢ちゃん。いや、間違えたな。男嬢ちゃんが正しいかな?」
「大介……3日間動けなくするわよ……」
かなり怒っていた。ここがもし、奈落の底なら更に下へ突き進むようなものだった。
 「いや、悪かった。一応、冗談だから安心して」
「まぁ、後が楽しみね」
かなり・・いや、それで済むほど楽ではなさそうだった。今の一言が自ら首を絞める破目になるとは、大介も思っていないようだった。とにかく、機嫌を良くする為、かなりの手加減をする破目になってしまった。
 「悪かったって、だから許して……」
返事が返ってこない。相当なデュエルが待っている事は、大介も分かっていた……しかし、何だかんだ言っても時間を忘れて楽しんでいるようだ。

 陽も落ち、夕陽が眩しい夕空。しかし、彼等の勝負には関係が無いようだった。
 「俺のターン、ドロー。俺は何もせずにターン終了」
光の護封剣の効果で攻撃できない大介は、何も出来なかった。2ターン過し、あと1ターンとなった。
 「私のターン、ドロー。ハープの精を守備表示で召喚。更に大天使ゼラートにダグラの剣を装備。そして、アームド・ドラゴン LV5を攻撃。ダグラの剣の効果により、ライフが900回復。ターンエンド」
「御前、効果を知らないのか?勿体無いことするなぁ……」
「五月蠅いわねぇ!でも、アームド・ドラゴン LV7を召喚される前に倒せたんだし、良いじゃない」
「残念でした、アームド・ドラゴン LV7はこのデッキに入っていません。俺のターンだよな?ドローするぜ」
深雪としては、とっさに思いついた言い訳だったらしい。的外れではないにしろ、ともかく、バカにされたことは相当怒っているようだ。
 「俺はカードを一枚伏せ、俺のターンは終了だ。これで光の護封剣の効果は無くなる」
「私のターン、ドロー。悪いけど、ゾルガを生贄にテーヴァを召喚!ゾルガの効果により、このカードを生贄に捧げることでライフ2000回復。又、テーヴァの効果で大介は次のターン、攻撃できないわよ」
「だが、罠カード、落とし穴によりテーヴァを破壊!」
「でも、こっちにはまだ大天使ゼラートがあるわ。大天使ゼラートでエメラルド・ドラゴンを攻撃。そして、ハープの精で攻撃!計、1600ダメージ。そして、ダグラの剣の効果により、ライフが900回復。ターンエンド」
さすがに、大介も苦戦している。が、運でも大介が上だという事は、ドローしたカードによって証明された。
 「俺はライフを半分払い、破壊竜ガンドラを召喚!破壊竜ガンドラの効果により、このカード以外のフィールドに存在すカードを破壊し、除外する」
「何よ、それ!」
「フィールドの天空の聖域、大天使ゼラート、ダグラの剣、ハープの精、俺の罠カード2枚、計7枚を捨てる。そして、破壊竜ガンドラの攻撃力は2100となる」
破壊竜ガンドラの効果で大天使ゼラートと天空の聖域を失ってしまったのだ。形成は逆転した。
「俺は魔法カード、レベル調整を発動!深雪がデッキからカードを2枚ドローする。そして、俺は墓地からアームド・ドラゴン LV3を特殊召喚する」
「でも、このターンは攻撃できないし、わざわざLV3を召喚するなんて、ミスにしては酷過ぎるわね」
そう言って笑っていた。ただのミス、それが作戦の1つであることも知らずに……
 「魔法カード、リロードで手札を入れ替えると、どうなるか分かるか?」
そう言うなり、手札と同じ枚数をシャッフルしたデッキから引いた。次の瞬間、大介の瞳には輝きがあった。
 「魔法カード、レベルアップ!を発動。アームド・ドラゴン LV3はアームド・ドラゴン LV5にレベルアップする。これで、アームド・ドラゴン LV5は攻撃可能だ。アームド・ドラゴン LV5と破壊竜ガンドラで直接攻撃!」
深雪は驚いた。LV3に拘った理由、フィールドのカードを1ターンで全て除外したこと、そしてその運と実力に・・・

 「御前、徹より良い筋してたかも」
前回の徹との戦いより、やりがいがあった。そういう意味を含めて言っていた。もちろん、冗談である。
 「あ、しまった……!」
「どうしたの?」
大介の慌てふためいた様子に、深雪は疑問を投げかけた。
「いや……何でもない。忘れていいよ」
手加減しなくては、と思っていた大介だったが忘れていたらしい。実際、深雪が忘れていればいいのだった。しかし、深雪の追及は止まらなかった。
「何なのよ、言いなさいよ!」
「本当に何でもないって、気にしなくていいって」
そう言って、夕陽の沈みきった空の下、二人は帰っていった。

 「じゃ、また明日学校でな」
「うん。それにしても綺麗な星ね」
外は暗くなり、星が瞬いていた。大介は深雪が感動するなど、と思っていた。二人は少し夜空に散りばめられた星を見上げていた。そして、二人は別れ、それぞれの家へと帰っていった……


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